歯列矯正(歯並び治療)kyousei
代表的な不正咬合の種類
歯並びが悪い状態のことを不正咬合といいます。「ガタガタ」「八重歯」「受け口」「出っ歯」など様々な歯列の状態や呼び方がありますが、ここでは代表的な不正咬合の状態、それらの一般的な原因・問題点・治療方法について解説致します。
叢生(でこぼこ)
歯と歯が重なったり、歯が回転(捻転)していることにより、歯列がでこぼこになっている状態です。一般的には、全ての歯がきれいに並ぶために必要なスペースよりも、顎骨のサイズが小さいことが原因となります。叢生の状態は、歯ブラシが隅々まで行き届きにくいため、虫歯や歯周病のリスクが高くなる傾向にあります。一般的な治療方法の例としては、歯と顎骨のサイズのアンバランスを解消するために、抜歯を行なったり、成長期であれば骨の成長を促すことでアンバランスを解消し、ワイヤー矯正(マルチブラケット)や、マウスピース型矯正装置などの矯正装置を用いて、歯列をきれいに並べていきます。
上顎前突(出っ歯)
上の前歯、または上顎骨が前方に突き出た(前突)状態です。一般的には、上の前歯が前方に傾斜していることや、上顎骨が下顎骨に対して前方に位置していることが原因となります。上顎前突の状態は、唇が閉じにくいため前歯が乾燥しやすく、虫歯や歯周病のリスクが高くなる傾向にあります。また、前突した前歯は転倒時の受傷リスクが高く、前歯の破折や脱臼に注意が必要です。一般的な治療方法の例としては、ワイヤー矯正(マルチブラケット)や、マウスピース型矯正装置などの矯正装置を用いて、上の前歯を後方に移動させ前突を解消したり(抜歯を行うこともあります)、成長期であれば上顎骨と下顎骨の成長をコントロールすることで骨格的な上顎前突の解消を行います。
下顎前突(受け口・反対咬合)
下の前歯、または下顎骨が前方に突き出た(前突)状態です。一般的には、下の前歯が前方に傾斜していることや、下顎骨が上顎骨に対して前方に位置していることが原因となります。下顎前突の状態は、前歯を使って食物を噛み切る動作が行いにくく、また、前歯の咬合に問題があることで発音にも障害を生じやすい歯列です。これらの食べる・しゃべるなどの口腔機能は幼少期に学習し発達していくため、反対咬合は比較的早期に解決することが望ましい不正咬合といえます。一般的な治療方法の例としては、ワイヤー矯正(マルチブラケット)や、マウスピース型矯正装置などの矯正装置を用いて、下の前歯を後方に移動させ前突を解消したり(抜歯を行うこともあります)、成長期であれば上顎骨と下顎骨の成長をコントロールすることで骨格的な下顎前突の解消を行います。上顎骨と下顎骨の骨格的なアンバランスが大きい場合などは、骨の手術を併用した矯正治療を行うこともあります。
過蓋咬合(咬み合わせが深い)
上の歯が下の歯に過度に覆い被さっている状態です。一般的には、咬合力が強い人に生じやすい不正咬合です。咬み合わせが深いことで、下顎のスムーズな動きが制限されてしまうと顎関節に負担がかかりやすくなります。また、歯が歯肉に接触することで歯肉を傷付けてしまうこともあります。一般的な治療方法の例としては、ワイヤー矯正(マルチブラケット)や、マウスピース型矯正装置などの矯正装置を用いて、上下の歯の間に適切な距離を設けることで過蓋咬合の解消を行います。
開咬(上下の歯が咬み合わない)
歯と歯を咬み合わせた状態でも、上下歯列の間に隙間が生じている状態です。一般的には口呼吸や指しゃぶりなどの癖が原因となったり、口唇や舌などの筋肉の作用が原因となって開咬となります。歯と歯が咬み合わないため、食物を咬み切る動作が行いにくく、また空気が漏れやすいため発音にも影響を生じやすい歯列です。前歯が咬んでいないことで、奥歯に咬合の負担が集中し、歯の痛みや動揺が生じることもあります。一般的な治療方法の例としては、ワイヤー矯正(マルチブラケット)や、マウスピース型矯正装置などの矯正装置を用いて、上下歯列間の隙間を減少させることで開咬の解消を行います。習癖や筋肉の作用が原因で開咬となっている場合は、正しい筋肉の使い方のトレーニング(MFT)を行ったり、開咬の原因として骨格的な要因が大きい場合などは、骨の手術を併用した矯正治療を行うこともあります。
空隙歯列(隙間があいている)
歯と歯の間に隙間ができている状態です。一般的には、顎骨のサイズに比べて歯の大きさが小さく(歯の欠損や、歯自体が小さいなど)、スペースが余ってしまうことが原因となります。また、舌で歯を押す癖が原因となる場合もあります。隙間が存在していることで、審美的な障害を生じたり、発音に影響が生じやすい歯列です。一般的な治療方法の例としては、ワイヤー矯正(マルチブラケット)や、マウスピース型矯正装置などの矯正装置を用いて、歯と歯の間の隙間を減少させることで空隙歯列の解消を行います。
歯列矯正に用いる装置
矯正治療に用いられる装置は多種多様に存在し、それぞれの装置に得意な動かし方、不得意な動かし方が存在します。また、それぞれの装置に特徴が存在します。例えば「取り外し可能」な装置は、食事の際に取り外すことができるため、口腔内を清潔な状態を保ちやすいのが特徴ですが、その一方で、食事のたびに毎回しっかりと装置を付け直さなければ、歯並びの治療は一向に進みません。さぼり癖のある方にはちょっと大変かもしれませんね。つまり、装置のそれぞれの特徴がメリットにもデメリットにもなるということです。
どの矯正装置が最も優れているということはなく、矯正医はそれぞれの装置の特徴を十分理解した上で、患者さんの不正咬合の状態、年齢、口腔清掃状態、協力度、ご本人の希望などの様々な条件にあわせて、その方に最も適している(メリットが最大になる)と考えられる装置を提案しています。
一般的によく用いられる代表的な矯正装置としては、歯の表側にブラケットを装着するワイヤー装置(マルチブラケット)があります。マルチブラケットを用いた治療は長い歴史があり、適応範囲がとても広いため矯正治療において最も頻繁に用いられる装置のひとつといえます。長い歴史があるため様々な研究がなされ、装置の特徴が熟知されているため、様々な治療に応用しやすいともいえます。当院では、クリアブラケットとよばれる透明で目立ちにくいブラケットを使用しています。
また、同じワイヤーを用いた矯正器具でも、リンガルブラケットという歯の裏側に器具を装着することで歯並びを治療する装置もあります。ワイヤー矯正治療を行いたいけど、装置が目立つのは避けたいという方に適しています。
食事やブラッシングのときに矯正装置を外して、口腔内を清潔に保ちたい、制限なく食事を楽しみたいという方には、取り外し可能なマウスピース型矯正装置が適しています。取り外せるため、紛失や装着忘れには注意が必要なのと、適応範囲はマルチブラケットに比べるとやや限定される傾向にあります。
歯列矯正について
一期治療
主に骨格の不調和を治療対象とする時期です。
一般的には、乳歯と永久歯の混合歯列期が対象となります。
口腔内の状態によってはブラケット装置を付ける場合もあります。
【本症例の概要】 主訴:前歯の噛み合わせが反対になっている/診断名:反対咬合/年齢:8歳/使用した主な装置:舌側弧線装置/抜歯部位:なし/治療期間:7か月/治療費:31万9千円(税込)、調節料3万8百円(税込)/一般的なリスク副作用としては、歯の移動に伴う痛み、虫歯・歯肉炎・歯根吸収・歯髄症状・顎関節症状等の発生の可能性が挙げられます。
二期治療
一期治療で適切に修正された骨格をもとに、永久歯を並べる治療の時期です。
主に、成長が終了した方の永久歯列期の治療です。成人の場合は、二期治療からのスタートとなります。
【本症例の概要】 主訴:歯並びがでこぼこしている/診断名:叢生/年齢:24歳/使用した主な装置:マルチブラケット装置/抜歯部位:上下左右第一小臼歯/治療期間:24か月/治療費:47万3千円(税込)、調節料13万2000円(税込)/一般的なリスク副作用としては、歯の移動に伴う痛み、虫歯・歯肉炎・歯根吸収・歯髄症状・顎関節症状等の発生の可能性が挙げられます。
リンガルブラケット治療
永久歯列における矯正治療
上下顎ともに裏側にリンガルブラケット装置を用いた治療方法です
矯正装置が周りから目立ちにくいのが特徴です
【本症例の概要】 主訴:前歯がねじれている/診断名:叢生/年齢:20歳/使用した主な装置:リンガルブラケット装置/抜歯部位:なし/治療期間:10か月/治療費:77万円(税込)、調節料7万7000円(税込)/一般的なリスク副作用としては、歯の移動に伴う痛み、虫歯・歯肉炎・歯根吸収・歯髄症状・顎関節症状等の発生の可能性が挙げられます。
マウスピース型矯正装置(インビザライン)
永久歯列における矯正治療
透明なマウスピース型矯正装置を装着することにより、歯を動かします。
矯正装置が目立ちにくいことと、食事やブラッシングのときに矯正装置を取り外すことができるので、口腔内を清潔に保ちやすく、虫歯になりにくいのが特徴です。
マウスピース矯正(インビザライン)は海外技工物のため薬機法対象外となる可能性があります。
歯列矯正用咬合誘導装置(ムーシールド)
概ね3~5歳くらいのお子様で乳歯列の反対咬合が対象となります。
取り外し可能な矯正器具を、お口の中に入れてもらうことにより、反対咬合を治療します。
【本症例の概要】 主訴:受け口/診断名:反対咬合/年齢:4歳/使用した主な装置:歯列矯正用咬合誘導装置(ムーシールド)/抜歯部位:なし/治療期間:5か月/治療費:5万5千円(税込)、観察料5500円(税込)/リスク副作用としては、歯の移動に伴う痛み、顎関節症状等の発生の可能性が挙げられます。
矯正歯科治療の費用について
矯正歯科治療は公的医療保険が適用されない自由診療です。永久歯列の一般的な矯正治療期間は約2~3年程度です(個人差があります)。通常、1~3カ月毎の通院が必要になります(例:1ヶ月毎の通院であれば約24〜36回の通院)
「矯正歯科治療に伴う一般的なリスクと副作用について」ご覧ください
歯列矯正の流れについて
1.矯正相談
ご本人の困りごとや、不正咬合の状態はその方によって様々です。
実際にお口の中を拝見し、お口の中の写真を撮影します。
撮影した歯列写真を用いてどういった不正咬合の状態なのか、どういった歯列矯正治療の方法が考えられるか、どのくらいの期間や費用が見込まれるのかなど、その方の状態に合わせてお話いたします。
2.精密検査
レントゲン写真、歯型、顔の写真など
現在の状態をより詳しく知るための情報を集めることで、より正確な診断を行うことが可能になります。
3.診断
検査結果をもとに、現状の説明、治療方法などの具体的な方針を相談します。
治療の選択肢は一つとは限らず、いろいろな選択肢が提案できる場合があります。
そういった場合は、ご本人の希望や最も大切にしたいこと(歯を抜くのかどうか・期間・費用など)を考慮し治療方針を相談していきましょう。
4.矯正装置装着・治療開始
相談させて頂いた治療方針に納得し、同意していただけた段階で、矯正装置の作製・装着に取りかかります。
はじめてのことで、わからないこともたくさんあると思いますが、
「こういうときはどうしたらいいの?」など何でも聞いてください。